スマートホーム機器の通信が不安定で困ったことはありませんか?
この記事では、次世代のスマートホーム通信規格「Thread」と、共通規格「Matter」との違いや関係性について、やさしく解説します。
Threadの仕組みやメリットを理解し、スマートホームの構築や機器選びに役立てましょう。
Threadとは?スマートホームの新しい通信規格
Threadは、スマートホームやIoT向けに最適化された、低消費電力・高信頼性のメッシュネットワーク通信規格です。
この規格は、Google傘下のNest Labsを中心に設立された「Thread Group」により2014年に公開され、Apple、Google、Amazonなどの大手企業も参画しています。Threadはオープン規格で、特許使用料なしで利用できます。
Threadの技術的な基盤は、OSI参照モデルにおける下位レイヤー〜ネットワーク層(レイヤー1〜3)をカバーしており、主に以下の構造で構成されています:
- 物理層(Layer 1)/ MAC層(Layer 2): IEEE 802.15.4(2.4GHz帯)を使用。Zigbeeと同様の無線方式で、低消費電力・中距離通信に優れる。
- ネットワーク層(Layer 3): 6LoWPAN(IPv6 over Low power Wireless Personal Area Networks)を採用。これにより、IPv6ベースでインターネットと直接連携可能。
Threadネットワークでは、デバイス同士がメッシュ構造で相互接続され、障害時にも自動で迂回経路を形成するセルフヒーリング機能を持ちます。また、ネットワークには「リーダー」「ルーター」「エンドデバイス」など役割分担があり、スリープや省電力動作にも最適化されています。
さらに、Threadは上位レイヤーのアプリケーション層とは独立しているため、Matterのようなプロトコルとも組み合わせて利用できる拡張性が魅力です。

Threadの特徴とメリット
Threadの主な特徴とメリットは以下の通りです:
1. メッシュネットワーク
Threadは、IEEE 802.15.4に基づくメッシュネットワークプロトコルを採用しています。各デバイス(ノード)は互いに接続し合い、中継(ルーティング)機能を持つため、障害が発生したルートを自動的に迂回できます。この動作は、ネットワーク全体での冗長性を高め、安定した通信を可能にします。
2. 低消費電力
ThreadはMAC層でのスリープ機能や、トラフィックが少ない際の低速ポーリングなど、省電力を前提とした通信アルゴリズムを備えています。これにより、センサーなどのバッテリー駆動デバイスは、数ヶ月〜数年単位で稼働可能です。
3. セルフヒーリング
Threadネットワークは、ルーティングアルゴリズム(特にRouting Protocol for Low-Power and Lossy Networks: RPL)を使用しており、ノードの故障や切断が発生しても、最適なルートを自動で再構成します。これが「自己修復ネットワーク(セルフヒーリング)」の所以です。
4. セキュリティ
Threadは、ネットワーク全体でAES-128ビット暗号化を採用しており、信頼できるデバイス間のみ通信が可能な認証・暗号プロセスを持ちます。また、TLSを用いたアプリケーションレベルの暗号化もサポートしています。これにより、盗聴や不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。
Threadと他の通信規格との比較
スマートホームでは、複数の無線通信規格が存在していますが、Threadはその中でも独自の特長を持っています。以下に主要な無線規格と比較した際のThreadの優位性を技術的に解説します。
Wi-Fiとの比較
Wi-FiはIEEE 802.11規格に基づき、広帯域・高速なデータ通信が可能であり、動画や音楽のストリーミングなどには最適です。しかし、通信時の消費電力が高く、常時電源供給が必要なデバイスにしか適していません。また、Wi-Fiのメッシュ構成(Wi-Fi Mesh)は親機・中継機の明確な設定が必要で、構築・維持が複雑です。
一方、ThreadはIEEE 802.15.4に基づいた低帯域通信で、最大250kbpsと通信速度は控えめですが、非常に低電力で通信が可能であり、センサーやスイッチといったバッテリー駆動機器に適しています。また、Threadのメッシュネットワークは自動構築・自己修復機能を持ち、ユーザーが意識せずとも高い信頼性を保てます。
Bluetoothとの比較
Bluetooth(特にBluetooth Low Energy)は近距離・低消費電力の通信に特化していますが、基本的にはスター型ネットワークで、接続距離が10〜30m程度に限定されます。また、同時に複数のデバイスとの安定通信には限界があります。
Threadはメッシュ構成を持ち、1つのネットワーク内で複数デバイス間の通信が同時に可能です。範囲も中継を通じて拡張できるため、Bluetoothよりも広域で安定したネットワーク構築が可能です。
Zigbeeとの比較
ZigbeeもIEEE 802.15.4をベースとしたメッシュネットワークプロトコルで、Threadと似た低消費電力かつ中距離通信を実現します。ただし、Zigbeeは独自のネットワークスタックを使用しており、IPベースでないため、インターネットとの統合にはゲートウェイが必須です。
一方、ThreadはIPv6対応のネットワークスタック(6LoWPAN)を使用しており、インターネットとの直接通信やクラウド連携が容易です。これにより、ネットワークの拡張性と柔軟性が大幅に高まります。
通信規格別:バッテリー駆動センサーの使用期間比較
項目 | Thread | Wi-Fi | Bluetooth (LE) | Zigbee |
---|---|---|---|---|
想定使用期間※ | 1〜2年 | 数日〜1週間未満 | 半年〜1年 | 1〜2年 |
通信方式 | IEEE 802.15.4 (メッシュ) | IEEE 802.11 (高速・常時接続) | Bluetooth LE (省電力) | IEEE 802.15.4 (メッシュ) |
消費電力 | 非常に低い(最適化された省電力設計) | 非常に高い | 低い | 非常に低い |
メッシュ対応 | Wi-Fi Mesh対応製品のみ | |||
インターネット接続のしやすさ | IPv6/6LoWPAN) | スマホ経由が多い | ゲートウェイ必要 |
※前提条件:単三電池2本を使用したスマートホーム用センサー(例:人感センサー、温湿度センサー)が、1日数回程度の通信を行うケースを想定。
MatterとThreadの関係性
Matterは、スマートホーム機器の相互運用性を高めるための共通規格で、Connectivity Standards Alliance(CSA)が策定しました。Matterはアプリケーション層のプロトコルであり、Threadはその通信層として採用されています。
つまり、Matterは「共通言語」、Threadは「通信手段」として機能し、両者が連携することで、異なるメーカーのデバイス間でもシームレスな接続が可能になります。
Thread対応製品の選び方とおすすめ製品紹介
Thread対応製品を選ぶ際のポイント:
1. Thread Border Routerの有無
Threadネットワークをインターネットに接続するには、Thread Border Routerが必要です。AppleのHomePod miniやGoogle Nest Hubなどが対応しています。
2. Matter対応の確認
Thread対応でも、Matterに対応していない製品もあります。相互運用性を重視する場合は、Matter対応製品を選びましょう。
おすすめ製品例:
– Apple HomePod mini(Thread Border Router)
– Google Nest Hub(Thread Border Router)
– Aqara M3 ハブ(Thread Border Router)

Threadに関するよくある質問(Q&A)
- Thread対応デバイスはWi-Fiが不要ですか?
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Thread対応デバイス同士の通信にはWi-Fiは不要ですが、インターネット接続や他のネットワークとの連携にはThread Border Routerが必要です。
- 既存のスマートホーム機器とThreadは互換性がありますか?
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既存の機器がThreadやMatterに対応していない場合、直接の互換性はありません。ただし、ハブやブリッジを介して連携できる場合もあります。
- Threadの設定は難しいですか?
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Thread対応デバイスは、対応するアプリを使用して簡単に設定できます。特にMatter対応製品は、QRコードを読み取るだけで設定が完了することが多いです。
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